2012年6月22日
教職員給与規程の「改定」にあたって
~教職員の叡智の結集と協働のお願い~
国立大学法人和歌山大学
学長 山本健慈
1、 はじめに
本学では、国家公務員の給与を削減する臨時特例法の例により、4 月1 日より役員給与の一律約10%削減を実施してきたところですが、このたび教職員給与規程についても7月1日付けで「改定」することといたします。
学長としてこの「改定」を決断するに至った状況を教職員のみなさんにお伝えすることが責務と考え、このメッセージを発表いたします。
この間、教職員等過半数代表者(以下「過半数代表」)及び教職員組合(以下「組合」)は、私が決断に至るまでの折衝において、この改定内容の不当性、根拠の無さを繰り返し真摯に主張されました。私は、そのほとんどの主張と論点について率直に共感したことを表明します。しかしながら、国立大学法人の責任者としての立場では、過半数代表及び組合の主張に対して十分に応えることができない状況で苦渋の「改定」の決断に至りました。
2、給与規程「改定」の根拠
私が苦渋の決断をした根拠は、この給与改定をめぐる政府と国民世論の動向がすべてです。去る2 月29 日に「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」(以下?給与削減特例法?)が成立し、この給与削減特例法を踏まえて、政府首脳や財務大臣の発言、総務省?文部科学省からの強固な要請などが繰り返し発せられました。また、国家公務員ならびに政府が関与する独立行政法人を含む機関役職員の給与削減を求める大手マスメディア主導により形成された国民世論が存在すること、以上に尽きると言えます。
和歌山大学経営協議会でも、高等教育財政の基本的なあり方への疑念を留保しつつ、先に述べた環境のなかにあることを認識され、やむなく承認されたと私は理解しています。
3、立場と主張を尊重しつつ、全構成員の参画と協働が大学の財産
私たち和歌山大学の各層を代表する学内三者は、昨年10 月公務員の給与改定に関する取扱いが閣議決定されたことを受け、東日本大震災への復興事業への参加と貢献の強い意思を表明しました。一方で「復興」方策として国家公務員の給与削減自体が先行することへの疑義と、それが国立大学法人に及ぶことの危惧を懸念し、国会および国民レベルでの討論をよびかけました(「地方国立大学の教育研究の持続的発展に関する共同声明???国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案及び運営費交付金問題について」)。さらに、和歌山大学経営協議会外部委員5氏も、共同声明に理解を示され、「地方国立大学に対する公的投資の充実を求める声明」を公表し「日本の高等教育発展にむけて国民、国会、政府のなかでの対話と議論がより一層広がることを強く期待する」ことを訴えていただきました。
私どもは、和歌山大学および国立大学法人の財政、経営について、また教育?研究?社会貢献事業を深く知る経営協議会委員のみなさんの支持に励まされ、国会議員、和歌山県議会、和歌山市議会をはじめとする和歌山県、大阪府南部の市町村議会等広く世論にも訴えアクションを展開してきました。
その結果、ほぼすべての方々から、私どもの意見表明に同意と支持をいただきました。
それは、大学政策に深く関与されてきた政治家、他大学の学長?理事、文部科学省の幹部などからも直接に、メール等で和歌山大学の行動への敬意と共感の声を寄せていただいたことからも明らかです。(「2012年、和歌山大学の未来を展望して ~年頭あいさつ~」を参照してください。)
4、国立大学の対応状況と和歌山大学の「志」
残念ながら私どもの世論形成の努力は、大手マスメディアが誘導する世論の流れを変えることができず、国会議決に影響を及ぼすまでには至りませんでした。(ただ、文部科学省サイドにおいては、国立大学法人運営費交付金等の削減幅の圧縮への努力もされたと思われますし、今後も文部科学省だけでなくわれわれも削減幅が圧縮縮小されるよう努力するのはもちろんです)
しかし、最も残念なことは、和歌山大学学内関係者の一致した努力、および和歌山大学経営協議会委員の方々の意見表明と同様の動きが、私の知るところ他の国立大学法人において見られなかったことです。
私は、このように国立大学の経営?事業に責任ある関与をする当事者側の社会へ訴える力が弱い現状において、一大学だけの力では、政府等による国立大学法人をも標的にした給与特例削減の度重なる「発言」、「要請」、「世論」に効果的に抗することができず、今回の決断に至った次第です。
私たち大学で働く教育者、研究者、教育研究を支えるスタッフは、決して経済的利益だけを求めて仕事をしているものではありません。しかし、今回の給与改定とその背景としての国立大学法人財政の大幅減額は、個人の生活に打撃を与えるに止まらず、組織としての大学により打撃を与え、疲弊させることに疑いの余地はありません。そのことは、日本社会、とりわけ近年の地域の疲弊から再生再建への努力を重ねている日本の全ての人々に大きな打撃を与えることにもなります。
これからの世界の未来、東日本大震災後の日本の在り方を考えるとき、私たちは、広く国民及び社会とともに学術研究?教育の社会的責任を深く意識し、その成果を創造することが急務であり責任でもあります。そのことこそが日本社会の高等教育機関及びそこで働く私たちへの国民的理解を得られる道であると心底より確信するものです。
5、教職員が意欲的に働くことのできる条件整備に取り組みます
私は、経営責任者として、和歌山大学で働くみなさんに、給与上の苦難を強いるなかにあっても、意欲的に教育、研究、職務等に取り組んでいただけるよう条件整備を一段と成熟させていく責任を痛感しています。
この間の過半数代表および組合との協議?懇談のなかでは、「大学の財政運営等の詳細が全構成員に十分伝わっていない」という声があると教えられました。学長?理事会は、しばしば形式化していると指摘される経営協議会、教育研究評議会や大学の諸委員会が、これまで以上に熟議を重ねる場となることに努力を払ってきました。これら諸会議を尊重することと学長のリーダーシップを発揮することは、決して矛盾したものではありません。
さらには学長?理事?学部長懇談会、学長?理事?事務系幹部懇談会を月一度開催し、相互の情報共有を図ると同時に、教員、職員一人ひとりに情報が伝わるように組織的な努力を積み重ねてきました。
しかしこうしたプロセスだけではカバーできない、過半数代表や組合などの立場からの独自な大学運営への関心があることも理解しています。
困難な状況を克服するためには、大学という組織にかかわるすべての方の積極的な関与、すなわち情報共有?参画?協働を徹底していく以外にはありません。したがって、私は、過半数代表、組合、さらには学生団体とのコミュニケーションの積み重ねによって、大学運営上の情報がより広く伝わり、またキャンパスの隅々からの情報、要望を得て、大学全体での協働の条件を整えていきたいと思います。
国立大学法人は、国家戦略会議での議論に応じての平野文部科学大臣レポート「社会の期待に応える教育改革の推進」、その過程で作成された文部科学省の「大学改革実行プラン-社会の変革のエンジンとなる大学づくり-」の具体的展開に直面しています。しかしながら、このなかには和歌山大学が、2011-13年行動宣言等で先見的に課題化し既に実績を積み重ねているものが多く存在しております。今日のような厳しい時代条件のもとではありますが、私は学長として、いかなる政治的財政的困難のなかにあっても、日本社会の未来が必要とする和歌山大学を、教職員そして広く社会のみなさんとともに創りだす努力をしたいと思っています。
私は、和歌山大学の持続発展と、地域社会の再生?再建のために、学生?教職員に支えられて、大学危機の時代を乗り越える努力の先頭に立つ所存です。
すべての和歌山大学関係者に、心を合わせての協働をお願いいたします。